フォーミュラ1やWRC(FIA世界ラリー選手権)と並ぶ国際格式のモータースポーツとして人気を誇るFIA世界耐久選手権(WEC)。さる9月13〜15日に富士スピードウェイで開かれた第7戦、6時間耐久レースでは過去最大の観客動員数を記録。今回、WEC唯一の日本メーカーであり、富士をホームコースとするTOYOTA GAZOO Racing(TGR)に注目した。
文=村山雄哉(ENGINE編集部) 写真=神村 聖(イベント、会場)、TOYOTA GAZOO Racing(グリッドウォーク、レース中走行写真)、LEXUS NEWS(室屋義秀選手)
クルマ好きなら誰もが一度は聞いたことがある「ル・マン24時間」は100年以上の歴史を誇る耐久レースだが、今は国際自動車連盟(FIA)とフランス西部自動車クラブ(ACO)が運営する国際格式レース「FIA世界耐久選手権」(WEC)シリーズの1戦として開かれている。
現在の形のWECが始まったのは2012年。コロナ禍の2年間を除き、日本では富士スピードウェイを舞台に、毎年熱戦が繰り広げられてきた。そのWECに初年から参戦し続け、近年ますます勢いをつけているのがTOYOTA GAZOO Racing(TGR)である。2022年、2023年の富士では、プロトタイプカーによる「ハイパーカー」クラスで、決勝1位、2位を独占。
TGRといえば、同じく国際格式のWRC(FIA世界ラリー選手権)でも、2023年にはメーカーを対象とするマニュファクチャラーズランキングで他社を大きく引き離して1位となったのも記憶に新しい。TGRは今、世界のモータースポーツ・ファンが注目するチームなのだ。
WEC富士の開催まで1週間に迫った9月7〜8日、TGRの姿は東京タワーにあった。
SHOWCASE in TOKYO TOWER」と名付けられたこのポップアップ・イベントでは、1階のイベント広場に今シーズンのTGRのハイパーカー・マシン「GR010 HYBRID」を特別展示。2016-2020年のWEC参戦マシン「TS050 HYBRID」のレプリカに乗りこみ、レースさながらの景色やサウンドを体験できるコーナーなども用意された。イベント会場には集まったのはモータスポーツ・ファンだけではない。東京タワーに訪れた国内外の観光客やコスプレイヤーの多くも、足を止めて注目する存在感を放っていた。
8日の午後には、館内のアミューズメント施設「RED° TOKYO TOWER」にて、雑誌ENGINEとのコラボレーション・イベント「ENGINE×TOYOTA GAZOO Racing:WEC富士 直前スペシャル・ミーティング」を開催。抽選で選ばれた幸運なENGINE、ENGINE WEBの読者のみなさんを前に、TGR Europe 副会長で元ル・マンドライバーの中嶋一貴さん、7号車ドライバーの小林可夢偉選手と、ENGINE総編集長の村上 政が登壇。
トークショーでは「長時間のレースで集中を保つ方法は?」、「複数のドライバーが乗るマシンのセッティングはどのように合わせるのか?」、「耐久レース観戦の見どころは?」など、本戦を目前にしたチームメンバーの本音トークに一同、身を乗り出して聞き入っていた。
さらに会場には、TGRの今シーズンのWECドライバーの平川 亮、マイク・コンウェイ、ニック・デ・フリース、セバスチャン・ブエミ、ブレンドン・ハートレー各選手も登場。会場に用意されたレーシング・シミュレーター「グランツーリスモ」で行われたのは富士スピーウェイを舞台に予選形式(混走)のタイム・アタック対決である。車両はもちろんTGRのWECマシン「GR010 HYBRID」。現役選手とWECマシンで対決できるというまたとないヴァーチャル体験に、参加者は忘れられないひとときを過ごした。
いよいよ9月13〜15日に富士スピーウェイで開かれたWEC第7戦「富士6時間耐久レース」では、WEC富士の来場者数記録を大幅に更新。前年の1.2倍以上である延べ6万5800人が富士に詰めかけ、過去いちばんの盛り上がりを見せたのだ。
初日から決勝レースまで晴天に恵まれたことや、ハイパーカー・クラスにトヨタ、フェラーリ、プジョー、ポルシェ、キャデラックのほか、新たにBMW、アルピーヌ、ランボルギーニ各社が加わったことも要因のひとつだろう。
用意された待機列から大きく溢れるほどの大盛況となったピットウォークでファンのお目当ては、選手と交流ができるサイン会。各チームにそれぞれのファンが一目散に駆けつけるのだが、とりわけ大人気だったのはやはりTGRである。富士をホームコースとし、昨年、一昨年に連続で1-2フィニッシュを飾ったTGRには、今年も大きな期待が掛かってるようだ。
グランドスタンド裏の広場スペースも国際格式レースならではの賑やかさがある。WEC富士に参戦する各社の車両展示やグッズ販売テントのほか、シミュレーター体験コーナーやトークショーが行われる特設ステージ、飲食の出店などがびっしりと並んだ広場にも、来場者が途絶えることがなかった。また決勝当日の15日には、エアレース・パイロットの室屋義秀選手の壮大なデモンストレーション飛行が行われ、決勝レースを大いに盛り上げた。
TGRブースでは、「SHOWCASE in TOKYO TOWER」で展示されたWEC参戦車両の展示、乗り込み体験などのほか、WRCやスーパー耐久シリーズで戦うGRヤリス、GRカローラの姿もあった。さまざまなカテゴリーのモータースポーツをクルマづくりの起点とするTGRのアピールだ。
ステージ・イベントで多くの人が集まったのは、参戦ドライバーが登壇するトークショー。特に多くの人が押し寄せたのは14日の予選後に行われた回で、TGRからは予選を走った小林可夢偉選手(7号車)と平川 亮選手(8号車)が登壇した。
15日の決勝では、8号車が表彰台を目前に受けたドライブスルーペナルティにより10位フィニッシュ、7号車はレース中の接触アクシデントにより残念ながらリタイアという結果に終わったTGRは、最終戦まで予断を許さない戦況となった。
そんな最終戦は10月31日〜11月2日、バーレーンで行われた。7号車は燃料ポンプのトラブルでリタイアを余儀なくされたが、一方の8号車は波乱万丈のレースの末、劇的な逆転で今季3勝目のトップチェッカー。WEC富士では首位をポルシェに奪われていたマニュファクチャラーズランキングも奪還し、TGRは6シーズン連続となるWECチャンピオンを獲得した。来シーズンも、TGRからは目が離せない。